〜〜Zephyranthes〜〜
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 普通の町の、普通の商店街。
 特筆されるような特徴はないが、大型量販店が近くに無いせいも有ってか、人
通りはかなり多めで繁盛している店ばかりだ。
 そんな商店街の一角に、普通の商店街にはなかなか無い店がある。

 アンティークショップ。

 古物、リサイクル品などを扱ったいわゆる骨董屋だ。
 しかも若い世代を狙った様なちゃらちゃらした店ではなく、ある程度本格志向
の店だ。
 だが外見は新しく、店内の雰囲気も骨董屋という風ではなく、清楚で明るい若
い人でも気軽に入ってこれるような店構えだ。
 実際、本格志向な店の割に若い人の足通りはかなり多めで、こういう店にして
はかなり流行っている。

 もっとも、以前は若い人の足はまったくといっていいほど無く、売り上げもそ
んなによくも無かった。
 固定客が数人、しかも、店長の伝でという人ばかりの、いわゆる普通の骨董屋
だった。
 そんな殆ど趣味の世界に近い店だったのだが、今から8ヶ月ほど前に店長が替
わってから、この店は変った。

 本来の店長であった人物の息子、若い店長に変ったから……という訳でもない。
 理由は、一人の女性にあった。
 その女性が来てから店の売り上げは大きく伸び、店の雰囲気も若々しくなった。
 そう、まるで魔法を使ったみたいに。

 しかも、その女性は8歳くらいの女の子だ。
 もっとも、ただの女の子ではないのだが……実際の年齢は20を越える。
 しかも、本当の魔法使いなのだ。

 そんなアンティークショップ、五月雨堂の立役者となった少女は……
 ひじょーに機嫌が宜しくなかった。




 はっぴー? でい




 3月10日 午後

”最近なんだかみんなに避けられてるよーな気がする”

 店の整頓をしてるとき、そんな事を思って手を止めちゃってた。
 なんだか、最近みんなのあたしに対する態度がおかしい。
 大体1週間前ほどからかな?

 けんたろはなんだか隠し事してる風に時々視線を逸らすし、ホットケーキを食
べにいったら、結花やリアンも同じように視線を外すし。
 そのくせ、なんだか3人でコソコソと話し合う事があったりするし…

 なにかあたしにだけ隠してるんじゃない?
 なんだか仲間外れにされてる気がするんだけど……

「ん? スフィーどうした?」

 モップを持ったままけんたろの事をじっと見てたら、そう声を掛けられた。
 何時もと同じ様子だと思う。けど、何処か違和感を感じる。
 なんて言うか……どこかよそよそしい気がする。

「ねぇ、けんたろ……わたしに何か隠してない?」
「え? なにを?」
「だから、なにかっ」
「別に何も隠してなんか無いぞぉ?」
「……」

 にっこり

 さわやかーって言う擬音が付きそうなくらいに微笑むけんたろ。
 うりゅぅ、わざとらしい笑顔なんかみせてぇ……
 やっぱりなにか白々しいぞ?

「ほんとにっ?」
「な、なんだよ、ほんとに何もかくしてねーって」
「……ふんだ、もういいっ」
「なんだよ、変なやつだな」

 きーっ! 誰の所為だと思ってるのよ、バカッ!



 3月10日の、夜

「うー……」

 仕事が終わって、ご飯を食べて、そしてゆっくりお風呂に浸かる。
 何時もだったらしあわせな一時なんだけど……

 全然気が張れない。
 ご飯だって何時もの半分くらいしか喉を通らなかったし、仕事は失敗ばかりだ
ったし。もうさんざんだったよ。
 それもこれもけんたろの所為なんだからねっ!

「まったくっ、一体みんなで何を隠してるのよ……」

 ちゃぷっ

 怒りに任せてお湯の中に潜る。
 お湯の中の景色って、なんだか不思議。きらきら輝いて見えてとっても綺麗。
 きっとお湯の上には髪の先だけが出てるんだろなー……

「ぶくぶくぶく……」

”でも、幾ら綺麗でも……仲間はずれは……”

 ザパッ

「ぷは…………淋しいよ、けんたろ……」

 誰にでもなく、そっと呟く。
 んー、なんだかセンチかな?
 あたしらしく……ないかな。

「うー……って、あぁっ! いけない、お邪魔女始まっちゃうっ!!」

 毎週楽しみにしてるアニメだから、絶対にみのがせなぃっ!
 もう、見逃したりしたらけんたろの所為だからねっ!




 3月11日の、昼

「……」

 今日は日曜日、商店街の半分は休みだけど、五月雨堂はやってる。
 日曜日は普段来ないお客さんも来れる日から、売り上げが伸びる日……
 のハズなんだけど。

「何でけんたろは出掛けてるのよー」

 今日はあたしが一人で店番をする事になっちゃった。
 けんたろは朝から出掛けちゃってる……
 一応、あたし一人でも店番が出来るほどには成ったけど、それも常連さんだっ
たらの話。
 店先であたし――どう見たって、8〜9歳の女の子――を見た初めて来る人は
みんな店に入らないで帰っていっちゃう。
 おかげで……

「うりゅぅ……暇だよぉ……」

 なーんにもする事が無くなっちゃった。
 番台でくてーっと寝そべってると気持ち良いけど、お客さんが来ないとする
事無いよぅ…ひまだよぉ。

「もー何処に行くかくらい教えてくれたって良いじゃない……けんたろの馬鹿」
「ふむ、健太郎くんは馬鹿だったんですか……いやいや、良い事を聞きました」

 びくくぅっ!!

 いきなり頭の上から声を掛けられて、思わず飛び上がりそうに成る。
 だ、誰?? いったい?

「え?? あっ! な、長瀬さんっ!」
「はいこんにちは。お邪魔させてもらってますよ」

 にっこり

 うちのおじいちゃんと同じ位の歳なのに、すっごく子供っぽい笑顔を見せる長
瀬さん。
 何時の間に来てたんだろ。いつも唐突なんだから、この人……

「もぅ、びっくりしちゃったよ。いきなりなんだもん」
「ははは、いえ、入って来る時あいさつはしたんですよ? でもスフィーさんが
上の空だったみたいで」
「あう、ご、ごめんなさい。ちょっと其の……」
「何か、悩み事でもあるんですか?」
「っ!」

 飄々とした口調なのに、内容を聞いてあたしは驚いちゃう。
 なんであたしが悩み事を抱えてるって分かっちゃうの?
 ほんと、この人は何でも知ってるんじゃない? って思っちゃうよ……

「くす、どうやら図星見たいですね。良かったら、相談に乗りますよ?」

 少し迷う。
 なんでも無い事かもしれない、ただの勘違いかもしれない。
 けんたろや結花達は、ほんとは何でもないのかも知れない。
 ただのあたしの勘違いかも知れない。
 だから、人に相談するのは間違ってるのかもしれない。
 ……でも……

「……うん……えっとね……」

 でも、せっかくだから、聞いてもらおうかな――



 3月11日の、昼下がり

 接客用の椅子に腰掛け、長瀬さんにお茶を入れてあげて、あたしは一部始終を
打ち明けた。
 解決にはなんないかもしれないけど、それでも話した分だけ気分は晴れたかな。

「……ってわけで、なんだか最近けんたろ達に避けられてる感じなの」

 はふっとため息を吐いて話し終えるあたし。
 入れるだけ入れて飲まなかったお茶に、やっと口を付けた。
 ……温くて、あんまり美味しくないかな。

「ふむ……なるほど。スフィーさんの元気が無い原因はそれですか」

 長瀬さんはあごに手を当てて深く考え事をするように眼を閉じる。
 さっきの笑顔とは大違いに、凄くまじめな顔になってる。

「うん……なんだか、一人だけのけ者にされてるみたいでさ、あったま来ちゃう
よねっ?」
「はっはっは。ちょっと物騒ですね。でもまあ、気持ちは分からなくも無いです
よ。一人だけというのは、ちょっと…」
「でしょでしょ? 酷いよね、みんな」
「ん……ですが、健太郎くん達が訳も無くスフィーさんをのけ者にするとは…」

 一人でぶつぶつ言い始める長瀬さん。なんだか考え事でもしてるみたい。
 そんな長瀬さんをじっと見てたら……
 ふっと、長瀬さんの視線が壁の方に向いた。
 つられるようにあたしも壁を見たけど…棚…後はカレンダーくらいで、何も無
いけど?

「……ぁぁ……なるほど……そういえば……」
「うりゅ? 長瀬さん、何か知ってるの?」
「いえいえ……私は別に、何も聞いてません。ただ……」
「……ただ?」

 でも長瀬さんは、なんだか納得したように笑顔を見せた。

「ん……いや、気にする事ではないと思いますよ」
「えっ?」
「スフィーさんは別に仲間はずれにされてる訳じゃないと思いますよ」
「で、でもっ」
「そうですね、スフィーさんの心配事も明日になればすっかり解決すると思いま
すよ」
「……ほんとうに?」
「ええ本当です。嘘じゃありませんよ」

 にっこり

 何時ものように悪戯っぽいんじゃなくて、とっても優しい笑顔で長瀬さんは言
った。
 うりゅぅ……長瀬さんも、何か知ってるのかなぁ?

「今は不安かもしれませんが…まあ、健太郎くんをもう少し信じてあげて下さい。
きっと、健太郎くんもスフィーさんの事を一番に気に掛けてますから」
「ほんと…?」
「もちろん」
「うん……分かった。信じるね」

 まだちょっと不安だけど……
 でも……とりあえず、長瀬さんの言う事を信じてみよう。
 明日になったら、きっと解決する。はず、だよね?
 疑ってばっかりも、嫌だしね。



 3月11日の、夜

「……(もきゅもきゅもきゅ)」
「……なんだよスフィー、人の顔をじっと見て。俺の顔に何かついてるか?」
「……別に」
「じゃあなんで見てるんだ?」
「良いじゃない、あたしの勝手でしょ?」
「いやまあ、そうだが……なんか気になるぞ?」

 いつものようにご飯を食べつつ、あたしはじっとけんたろを観察してみた。
 やっぱり、何処かよそよそしい感じがする。
 何か隠してるのは間違いないけど……

 けど、長瀬さんと話してからちょっと考えたんだけど、けんたろ達の態度、何
処かおかしい。
 いや……あたしを何処か仲間はずれにしてるんだけど……ただ、仲間はずれに
してるんじゃない気がしてきた、かな?
 仲間はずれって言うか、何か隠してる。あたしにだけ、あたしに関する何かを、
かな?
 そんな感じがする……ような。

「うー……」

 うりゅぅ……考え過ぎてわかんなくなってきちゃったよぅ。
 そう思っていたら。

「あ、そうだ。スフィー」

 急にけんたろが声を掛けてきた。

「えっ? な、なに?」
「明日もさ、俺出掛けるから」
「えっ? ま、また?」

 また出掛けるの?
 またないしょで?

「あぁ、スマン。でも、明日は臨時休業にするから、店番は良いよ」
「じゃ、じゃぁ……?」

 訳も無く不安になりながら、あたしが理由を聞こうとしたとき、それを制する
ようにけんたろが言った。

「ああそれと。明日のあさ10時くらいに、HONEY BEEに行ってくれよ」
「え? え?? な、何で?」
「何でも、詳しくは秘密だ」

 そういってにっこりと微笑むけんたろ。
 ……なんか、其の笑顔が哀しいよ?
 なんで詳しく教えてくれないの?
 あたしとけんたろの仲って、其の程度?
 そうは……思いたくないよ?

「……うん、分かったよ」

 でも、とりあえずあたしは頷いておいた。
 不安だけど……哀しいけど。
 でも、きっと長瀬さんの言う通りだと思うから。
 だから長瀬さんを……そして、けんたろ達を信じて。

「明日、10時だね?」




 3月12日 AM9:50

「何か釈然としないけど……
 でも、けんたろが久しぶりに誘ってくれたんだし。
 う……でもけんたろが直接誘ってくれた訳でもないし……
 うりゅぅ……」

 指定された時間まで、後10分。
 でも、あたしは行こうかいくまいか迷ってた。
 けんたろは出掛けてる。
 でも、けんたろはHONEY BEEに行ってくれって言った。
 行けば、リアンや結花がいるだろうけど……
 うー……ぁー……

「はぅ、どぉしよぉ……」

 ほんとに避けられてるのか、隠し事されてるのかって言うのは正直ワカンナイ。
 だから、不安……
 もし本当に避けられてたら?
 何か隠されてたら?
 あたしだけ仲間はずれにして、けんたろや結花やリアンで何かしてたら…

 そう思うと、行くのをためらっちゃう。
 うー……ほんと、あたしらしくないなぁ……

”明日になればすっかり解決すると思いますよ”

 ふっと、長瀬さんの言葉が頭に浮かんだ。
 明日……つまり、今日になったら本当の事が分かる。

”まあ、健太郎くんをもう少し信じてあげて下さい。きっと、健太郎くんもスフ
ィーさんの事を一番に気に掛けてますから”

 ……健太郎を、信じる。
 うん……信じる。
 信じよう。
 何か、訳が有るんだよね。
 だったら、もう少し信じるよ、けんたろ。

「んーええいっ。行こう、行くんだもんね。くよくよしてもはじまんないよっ」

 ぱちんと頬を叩いて気合いを入れる。
 そうよ、もしそうだったら其の時でけんたろ達にはっきりと言えば良いのよ。
 行こう、何が有るのかは知らないけど、取りあえず行こう。



 3月12日 AM10:00

「……?」

 言われた通りにHONEY BEEに来たけど……
 ドアにこんな札が掛ってた。

「……R・E・S・E・R・V・E・D……??」

 れせるべど? じゃ、無いよね……?
 お休みの札とは違う見たいだけど……
 うりゅぅ……

「……入って、良いのかな?」

 うーん……何か別の用事だったら邪魔かもしれないしー…
 でも、あたしはけんたろに呼ばれたんだし。
 うぅ……

「ええい、入っちゃえっ!」

 迷いを振り切るようにドアの分に手を掛け、思いっきり引く。
 その途端。

 パパァンッ!!

 とけたたましい音と一緒に何かがあたしに降りかかってきた。

「ふやぁぁぁっ!?」

 な、なに? 今の何っ!?

『お誕生日、おめでとー』

「え、ええ!??」
「スフィー、22歳の誕生日おめでとう」
「おめでとう、スフィーちゃんっ」
「姉さん、おめでとうございます。(にこっ)」

 口々に言う、けんたろと結花、そしてリアン。
 た、タンジョウビ? あっ……今日……3月12日っ!

「こ、これったあたしの誕生日会?」

 驚いた風……って言うか本当に驚いてるんだけど、そんな感じで言うあたし。
 そんなあたしの頭にぽんと手を置いて、けんたろがにっこりと微笑んできた。

「ああそうだよ。前に俺のを祝ってくれたろ? それに、一緒に祝ってやるって
約束したしな。だから、今度はスフィーの番だ」

 け、けんたろ……覚えててくれたんだ。
 あたしの誕生日。

「ふっふー。ほら、一杯ホットケーキ焼いたんだよ。料理も健太郎の時に倍以上
に作ったんだから。一杯食べてね」

 テーブルの上には大好きなホットケーキが山の様に積まれてる。
 結花、一生懸命に焼いてくれたんだ……

 で、でも。

「でもどうして教えてくれなかったの?」

 そりゃ、忙しかったし、考え事してたりであたしも忘れてたけど……
 ぜんぜん、忘れてたけど。
 でも、みんなで黙ってるなんて酷いんじゃない?
 そう思ったら、リアンが済まなさそうに声を掛けてきた。

「くす……驚かそうと思って内緒にしてたんです。健太郎さんがそうしようって」
「けんたろが?」
「あぁ、いつも仕事でがんばってくれてるからな。でも、普通に祝うだけじゃ面
白くないだろ? だからわざと意識させない様にして、おどろかそうって」

 悪戯っぽく笑うけんたろ。
 うぅ、もしかしてわたしが悩んでたの、知っててやってたの?
 あたしが色々悩んでるのを知ってて?
 むー……ひどぉいっ!

 ……でも……
 やっぱり、嬉しいかな。
 だけど……やっぱり、ちょっと許せないかな?
 だから、ちょっと仕返ししちゃえ。

「……と」
『え?』
「……がと」
「スフィー…?」

 顔を伏せたままぽそぽそと繰り返すあたし。
 そんな様子に、健太郎が不安層に顔を寄せたときに……

「ありがとぉっ!!」

 思いっきりでっかい声でそう叫んだ。

「うわぁっ!」
「ひゃぁっ!」
「きゃっ!」

 予想どうりに、3人ともびっくりしたように首を竦めた。
 あははっ。

「くす、変に気を揉ませたお返しだよっ」

 ウィンクしながら、あたしは3人に言った。
 このくらいのお返しは良いでしょ?
 こっちはものすごく悩んだんだし。

「なっ、この……」
「くす……でも、とっても嬉しいよ」
「え?」
「くすっ、えいっ!」

 何か言いかけたけんたろに、あたしは思いっきり抱き着いた。

「うわわっ、こ、こらスフィー!」
「えへへっ、結花もリアンも、ありがとね。とっても嬉しいよ」

 けんたろに抱き着いたまま、あたしは結花達に笑顔を見せた。
 いろいろと悩まされたけど……でも、ほんとに嬉しいっ。

「あ……う、うん。喜んでもらえて良かった。でも、それは料理とかを食べてか
らにしてよね? スフィーちゃん」
「うんっ。思いっきり食べるから、覚悟してよね?」
「くす、プレゼントもあるんですよ。健太郎さんと一緒に姉さんの為に一生懸命
選んだんです」
「ほんと? なんだろ、楽しみっ」

 お邪魔女グッズかな? それとも、もっと別の何かかな?
 えへへ……嬉しいな。

「ったく……ま、取りあえず乾杯しようぜ?」
「うんっ」

 昨日まで……ううん、ついさっきまで思ってたわだかまりや不安が消えてく。
 嬉しさであたしの胸がいっぱいになってく。

 ほんと、ほんとに嬉しい。
 けんたろ達はあたしに内緒にしてたけど、あたしの事を蔑ろにしてた訳じゃな
かったんだ。
 いっぱい、いっぱい思ってくれてた。
 それが、とっても嬉しい。

 けんたろ達を、信じて良かった。

「それじゃ、スフィーの誕生日を祝って……かんぱいっ」
『かんぱーいっ!』

 色々と悩んだけど……みんな、みんな有難うねっ。
 あたしとっても幸せだよっ!



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