〜〜Zephyranthes〜〜
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あなたの願。
あなたの恋。
あなたの愛…
其れは、私の願。
私の恋。
私の愛…
あなたの心は私の心。
あなたの過去は私の過去。
あなたの記憶は私の記憶。
あなたの好きな人は、私の好きな人。
あなたの愛した人は、私の愛する人。
じゃあ…私のこの思いは、全てあなたからの物なの…?
私の…私の思いは…?
この、あの人が好きだという思い…
恋する思い…愛する思いも…
全部、あなたの物なの?
ねえ、お願い…答えて……
私の……この思いは……私の物なの……?
其れとも、あなたの物なの……?
ねえ、答えて……
秋雨の降る頃
ん……ぁ……
……また…あの夢……
いつからかもう忘れたけど…殆ど毎日見てる…
毎回同じ…
私の前に女の人が居て、私は其の人に問い掛ける…
でも、其の人は一切答えてくれなくて…
ただ、私をじっと見てるだけ…
悲しそうな申し訳ないような…とても、綺麗な…
でも、良く知っている瞳で…
エディフェルと、私の夢…
彼女の記憶が夢に出る…そういう事は今までにずいぶん有った。
そうやって彼女の記憶を共有してきたから。
遥かな昔、エディフェルがどう生きたか…どう思ったか…
次郎衛門とどう出会い、愛し、そして死んで行ったか。
夢を通して、私はそのほぼ全てを体験してきた。
でも…彼女が、私の前に立つ事は今まで無かった。
何故なら、其れまでの夢は私=エディフェルだったから…
でも、最近見ている夢は…
私と、エディフェルが向かい合い…そして…
「楓お姉ちゃん? そろそろ朝ご飯だよ」
布団の中で色々と考えていたら、初音の声が聞こえてきた。
え…もうそんな時間なのかな…?
そう思って時計を見てみると…あ…時間大分過ぎちゃってる。
「お姉ちゃん? まだ寝てるの?」
「ぁ……ううん、起きたよ」
「あ、よかった。くす、早くしてね、みんな待ってるから」
「うん…」
小さく返事をして、私は布団から起きた…
窓からの日差しは暖かかったけど、気分はどんよりしていた。
今はもう10月の終わり。
夏の終わりに起ったあの、一連の忌まわしい事件から約2ヶ月たった。
耕一さんに思いを告げ、鬼としての覚醒が成功した後。
犯人だった鬼とは、私と耕一さんとで戦い……結局討ち損じてしまった。
でも、あれ以来その鬼の波動は感じなくなった。
もう事件は起らない…そんな確信めいた思いだけを残し、事件は迷宮入りにな
った。
事件は色々な傷痕を残し、悲しい思いでも多く作ってしまった…
でも、私にとっては……イケナイ事かもしれないけど、そんな事はどうでも良
かった…
私の…前世からの思いを…エディフェルだった頃から思いつづけた恋を、実ら
せる事が出来たから。
耕一さんと……一つになって、愛を確かめ合えたから…
でも……其れから暫く経ってからだ。
あの夢を見始めたのは…
「おはよう…」
「あっ、楓お姉ちゃんおはよ」
支度を済ませて茶の間に来ると、初音が元気な声で迎えてくれた。
色々考えていたら、結局いつもより大分遅れてしまった…
「こら、楓、遅いじゃないか。お味噌汁が冷めちゃったぞ?」
「ごめんなさい、梓姉さん…」
いつもの位置に座ると、梓姉さんがそう声を掛けてきた。
でも、差し出されたお味噌汁は暖かかった。
きっと暖め直してくれたんだ…
そう思うと、ちょっと嬉しくて、凄く申し訳なかった。
「楓、今日は珍しく遅いわね…何かあったの?」
「え…? ううん、なんでも無いの、千鶴姉さん」
「ほんとに? 何か有ったんだったら相談に乗るわよ?」
「はっ、千鶴姉に何の相談が出来るの? こんな亀姉に相談したって無駄無駄。
自分の事も満足に出来ないってのに…」
「あずさっ!」
「お〜こわこわ、でもホントの事じゃないか? ドン亀の千鶴姉?」
「きぃ、この子はぁっ!」
「千鶴姉さん、落ち着いて…梓姉さんも」
いつもの調子で掛け合う姉二人を、いつもの様に宥める私。
「あっと…ごめんなさいね、楓。でも、ほんとに何か有ったら…」
「ううん、良いの……なんでもないから…」
そういって軽く微笑む…
良く考えてみると……いつから微笑めるようになったんだろう。
ちょっと前迄は、こういう風に笑う事も出来なかった気がする。
「もお、お姉ちゃん達、お話ばっかりしてないでご飯食べようよ。また冷めちゃ
うよ?」
初音が腰に手を当てて、軽く怒ったように言う。
確かに時間を無駄につぶしてるかも…
「ああ、いけないいけない……其れじゃ、いっただっきま〜す」
「はい、いただきます」
「…頂きます…」
「いただきま〜す」
口々に言って、朝ご飯を食べ始める。
毎日の変わらない朝ご飯。
でも、其の変わらない毎日が実はとても貴重だと言う事を、私は知った…
多分、みんなも。
食べ始めて暫らく。
「あ、そういえば…楓お姉ちゃん」
「ん…なに?」
皆は半分、私はもう少しで食べ終わると言う辺りで、初音に声を掛けられた。
「そういえば、昨日耕一お兄ちゃんから電話が有ったよ」
「えっ……」
事も無げに言う初音に対し、私は思わず声を上げてしまった…
耕一さんが……私に電話?
「へ〜、楓にねぇ……ふぅん……」
「こら梓、変に勘ぐるもんじゃ有りません」
耕一さんと私の関係は、皆もう知ってる。
関係と言っても、付き合うと言う事だけだけど…
それをからかうような梓姉さんの声と、たしなめる千鶴姉さんの声が、耳に入
ってきた。
でも私の頭には其の言葉は残らず、初音の声だけが繰り返し響いていた。
耕一さんが……耕一さんが私に電話を…
「其れで……なんて?」
「んとね、昨日の4時ごろかな? 私が帰って来て暫らくだったと思うけど電話
が有って…」
ゆっくりと思い出しながら言っているんだろう…
噛み含めるような初音の言い方に、でも私は気がはやっていた。
「それで、楓お姉ちゃんは居ないって聞かれて、いないよって言ったら、それじ
ゃ明日また掛けるって」
「いつ? 何時って言ってたの?」
自分でも分かるくらいに動揺してる…
其れが声に出ちゃってるのも分かる。
でも、押さえられなかった。
自分でも分からないけど…そんなに、耕一さんに…
「んっと、5時だって。お姉ちゃん、そのくらいなら家に居るでしょ?」
「うん…5時ね。間違いない?」
「うん、5時。くす、今日は早く帰って来てあげてね。耕一お兄ちゃん、淋しそう
だったよ」
くすっと笑いながら、初音がそう言った。
其の言葉に、どきんと心臓が高鳴った。
耕一さんが、さみしそう……私に逢えなくて?
なんだか……其の事が申し訳なくて……でも、凄く嬉しかった。
「それじゃ、行ってきま〜す」
「先行くよ、千鶴姉も楓も、あんまりのんびりしすぎるなよ〜」
朝ご飯を食べ終わって少し、梓姉さんと初音が先に学校へと出かけた。
私の学校は二人より近いので、もう少しだけゆっくり出来る。
千鶴姉さんは、お迎えの車が来るまで待っているみたい。
私も支度は済ませてあるから、後は出かける時間を待つばかりだった。
でもその前に日課が1つある。
叔父様…耕一さんのお父様に、お線香を上げるという。
「………」
大きな家の、一番奥。
ひっそりと静まる部屋の中に、その仏壇はある…
ここには、お父さんとお母さん…そして、叔父様が眠っている…
そっとお線香、そしてロウソクを点けてから、私はその前に座った。
「…叔父様…」
そっと囁いてみる…もちろん返事なんかない。
「耕一さん…ちゃんと、克服できましたよ…私達の血を…だから…安心して眠っ
てください……」
あれから何度こう報告しただろうか…
でも、まだ伝えきれていない…そんな感じがして、毎日言ってしまう。
私自身が、一番信じきれていないのかもしれない。
耕一さんが、その血を…エルクゥの力を制御した事…
次郎衛門のことを…エディフェルを思い出した事…
そして…
私と耕一さんが、恋仲に成った事が…
何度も何度も、叔父様に報告してしまう。
まるで…そうしないと、其の事実が消えてしまうのではないか…
そんな…焦燥感に駆られて…
「…………」
でも、仏壇の中の叔父様は何も答えてはくれない。
ただ優しく微笑んでくれるだけだ……
あの頃と同じ様に…優しく、暖かい…
耕一さんにそっくりな、あの瞳で。
「叔父様…叔父様は、今の耕一さんを見たらどうおっしゃいますか…?」
よくやった、かな…それとも、信じてた、かな…
俺の息子だから当たり前さ…かも知れないな。
本当はどうなんだろうか…
叔父様は、耕一さんをどう言ってくれるだろうか…
何故か、聞きたかった…とても。
でも…
「楓? ここにいるの?」
はっ…
だれ…千鶴姉さん?
「え…は、はい」
「あなた、時間わかってるの?」
「じかん…?」
起きかけの…夢の続きでも見るような声で問い掛ける私。
「そろそろ行かないと、遅刻するんじゃない?」
「えっ? もうそんな時間?」
「もうって、あなた時計を見てないの?」
そう言われて腕時計を見てみると…
いけないっ、出かける時間をもう10分も過ぎてるっ。
「は、はいっ。今から行きますっ」
パタパタと慌てて立ち上がり、仏壇のロウソクを吹き消す。
いつもはちゃんと始末をするんだけど、今日は仕方がないので此の侭にしてし
まおう。
「叔父様、行ってきます…」
其れでも挨拶だけはちゃんとすませる。
やはり何も答えてくれない叔父様。
でも、行っておいで…と囁いてくれた気がした…
仏間の外に出ると、千鶴姉さんが立っていた。
澄んだ青空を背に、困った顔で私を見詰めている。
「くす、急ぎなさい。走らないと間に合わないんじゃない?」
「うん、それじゃ、姉さん…行ってきます」
「はい行ってらっしゃい。気をつけてね」
千鶴姉さんは、まるで母親が子供を送り出すようにそう言ってくれた。
気恥ずかしい…でも、心配してくれるのが嬉しかった。