〜〜Zephyranthes〜〜
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また、夢を見ているのだろうか?
街灯のぼんやりとした光が、くたびれたベンチを照らしている。少し離れた
ところに設置された自動販売機が放つ明かりもどこか頼りない。夜に抗するに
は、あまりにも脆弱な光。
だけど、
日の暖かさより、
月の輝きより、
それが自分達には相応しいようにも思えた。
昨夜、一人の殺人鬼と会った場所。
なぜか再び、俺はここにいる。
旧友
「よお」
ベンチいた先客が声をかける。
「やあ」
あいさつを返してその隣に腰を下ろす。
「ここを出るって言ってなかったか?」
「ああ、そのつもりだったんだが。あの時飲んだコーヒーの味が忘れられなく
てな」
「けど、おまえ金をもってないだろう」
「なんとなく、おまえが来るような気がして待ってた」
「たかるつもりかよ」
俺は、苦笑を浮かべる。
「迷惑か?」
「いや、別に」
笑みの質が僅かに変わるのを感じながら、自販機に向かう。財布の中から秘
蔵の万札を取り出す。これだけあれば足りるだろう。そう思って目をやると、
隣にはコーヒーの自販機があるのに気付いた。たまにはこっちにしてみるか。
「バケモノめ」
吐き気を堪えながら隣に視線を向ける。
数十本の缶コーヒーを飲み干して、その顔色に変化は見られない。
いつのまにか、秘蔵の万札どころか昼飯代までコーヒーと化していた。
「おまえが弱すぎるんだよ」
「俺は未成年だよ」
「そんなの理由になるか。俺だって未成年だ」
「・・・そうだったな」
思ったよりも酔っているのだろう。
俺もこいつも。
いろんな話をした。
事故の後、モノの壊れやすい線が見えるようになったこと。
先生とすごした数日間のこと。
有間の家での穏やかな生活。
楽しそうに、そして少し羨ましそうに聞いてくれた。
いろんな話を聞いた。
十年前に連れてこられた男の子の話。
四人で屋敷を駆け回ったこと。
いつも窓から自分達を見ていた女の子の話。
懐かしそうに、そして少し悲しそうに話してくれた。
「ホントはな、今日ここに来たのはおまえに返したいものがあったからなんだ」
こいつは、何も言わなかった。
始めから、分かっていたのかもしれない。
結局、俺とこいつはずっと繋がっていたんだから。
「俺も、おまえに返さなくちゃいけないものがある」
こいつが、何のことを言っているかもなんとなく分かった。
「気にするな。いらなくなったら返してくれればいい」
「・・・そうか・・・」
なんとなく沈黙が降りた。けれど、別にそれが気まずいとかいうことはなく、
なんだか、とても気持ち良かった。
「それじゃ、そろそろ行くよ。おまえもそろそろ行かないとまずいだろ」
そう言って俺は立ち上がったが、穏やかな声が呼び止めた。
「一つ伝言があるんだがいいか?」
「・・・・秋葉にか?」
「・・・いや琥珀にさ」
「・・・・おまえが言えばいいだろう」
「・・・俺はもう戻れないだろうから」
「・・・・分かった。何て言えばいい?」
「今まで傷つけ続けてすまなかった。それと今まで遠野四季の名で呼んでくれ
てありがとう」
・・・・・こいつのやってきたことは許されることじゃない。
でも、こいつも苦しんできた。それだけは分かった。
「・・・確かに伝えるよ」
どうも行く方向は逆のようだ。
互いに背を向け、最後にあいさつをする。
「じゃあな、遠野四季」
今返したばかりのこいつの本当の名前を呼ぶ。
「それじゃ、七夜志貴」
志貴も、俺の本当の名前を呼んでくれた。
月すら見えない夜の中。
それが、俺と俺の親友とが交した最後の言葉だった。