/月姫クリスマスSS
貴方と向かえる聖なる日を
あっという間に季節は巡り今年も残り僅かとなった。街中がクリスマス一色に彩られ、夕方であるにもかかわらず、家族やカップルに見える男女など、様々な人で賑わっていた。
そんな街の大通りを、遠野志貴は包装紙に包まれた箱を抱えながら歩いていた。
「よ……っと、結構重いな」
ずれかかった箱を持ちなおしながら、志貴は目の前にある箱の感想をもらす。遠野の屋敷に設置したクリスマスツリー用の飾りが入っているはずなのだが、それだけではないような、ずっしりとした重みを感じる。
本来なら、店から屋敷に配達されるはずだったのだが、店のほうが忙しいらしく、同じ町内である事もあって安易に「自分が受け取りに行ってくる」などと安うけあいしてしまったが、この重さは予想していなかった。
「むう。屋敷まで持ってると、腕つるかもしれないな……」
冗談で口にしてみたが、案外冗談にならないかもしれない。
『くい、くい』
「ん? どうしたのレン」
不意に服の裾を引っ張られ、後ろについてきているレンの方に顔を向ける。志貴が屋敷を出るときから着いて来ていて、受け取りに行った店では、兄妹と間違えられてしまった。今も、ずっと自分のすぐ後ろをテクテクとついて来ていた。
いつもと同じ黒いコートに黒いリボン。あまり感情を表さない紅の瞳は、僅かな不安を含んでいるように見えた。
その瞳が「大丈夫?」と語りかけているように思えて―――志貴の中に心配させてすまない気持ちと、心配してくれて嬉しい気持ちが沸いた。
「心配してくれてありがとう、レン。でも、これくらいは何ともないよ」
安心させるように微笑んでみるが、レンの瞳に感じる不安の色は完全には消えない。
(まいったなぁ……)
どうするか迷った志貴だが、少し先にある場所の事を思い出し、レンを安心させるために一つの提案を出した。
「そうだ、レン――」
段々と暗みを帯びてきた空。町中での喧騒もここまでくれば、すっかり聞こえなくなっている。
腰を下ろしたベンチの脇に箱を置き、固定されていた両腕を軽く動かす。どうやら結構、腕にきていたのか、軽い痺れを感じる。
「……」
その様子を、ずっと志貴の正面から心配そうに見ていたレンだが、暫らく腕を動かしていた志貴が「もう大丈夫だよ」と言うと、やっと安心したのか、志貴の右隣にゆっくりと腰を下ろした。
屋敷に近い小さな公園。時折、散歩のコースとなるこの場所で、少し休憩しようと言うのが、心配し続けるレンを安心させるための志貴の提案だった。
痺れが治り、改めてレンを見た志貴は、小さな驚きとともに目を開く。
レンの膝に、一匹の黒猫が丸まっていた。首についている小さな鈴のついた首輪が、その猫が飼い猫だということを告げていた。近所の猫だろうか?
レンと一緒に散歩にくるときは何時も思うことだが、優しい顔で猫をゆっくりと撫でるレンは、外見よりもずっと大人びて見え、「お姉さん」のような印象を受ける。
暫らくの間、気持ち良さそうにその身を任せていた猫だが、公園の入り口の方からかかってきた小さな声に、はっと立ちあがり、声のほう――小さな女の子の方に駆けて行った。どうやら、黒猫の家族が迎えに来たようだ。
女の子は猫を抱きかかえた後、軽く会釈して住宅街の方に歩いていった。それを何となく志貴とレンは目で追っていた。
――と、強い風が吹く。夕方から夜に変わろうとしている冬の風はかあんりの冷たさをもって吹きつける。
「さすがに寒くなってきたな。そろそろ帰ろうか、レン」
志貴の提案に、コクコクと頷くレン。さすがにこの寒さは堪えるのか、少しふるえている。見ていてかなり辛そうだった。
だから――
「――はい、レン」
首に巻いていたマフラーをそっとレンに巻いてあげる。コートとリボンの黒にマフラーの白が追加された。
レンはちょっとびっくりした顔をした後、マフラーをさわりながら、また心配そうな顔をしてくる。どうやら、マフラーの無くなった志貴の方を心配してくれているようだ。
そんなレンの顔を見るのはツライけれど、志貴にしてみればレンがふるえているのを見ているほうがツライ。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。屋敷までもうそんなに距離も無いしね」
優しくレンの頭を撫でながら志貴は答える。そして、ベンチから腰を上げると箱を持ち上げる。
「……」
そんな様子を暫らく見ていたレンだが、志貴が「行こう」と言って歩き出すと、慌ててついてくる。
ただ、心配そうな気配は消えなかった。
屋敷までの距離はもうそんなに無い。だが、荷物の重さと吹きつける風は如何ともしがたかった。
さらに、レンが依然心配そうな顔をしていることが、志貴には一番堪えていた。
「うーん。どうしよう」
良い解決方法も浮かばず、少し気まずい気持ちのまま、屋敷への道を歩いていく。
と――
『ピタッ』
「え……レン?」
「……」
突然、身体を密着させてくるレン。その事に暫し志貴は戸惑ってしまい、慌ててレンの顔を見る。
「……」
じっと見つめてくるレン。僅かに開かれた口から発せられた、「これなら暖かい」という声が志貴の耳に入っていった。
荷物を持っている手や、歩く動きを出きる限り邪魔しないように引っ付くレンを見て、自然に嬉しさの笑みがもれる。
「ん……ありがとう。レン」
御礼を言って、前を向く。後はこの坂を登れば屋敷に着く。もう直ぐ始まるパーティーは、とても素敵なものになるだろう。そして、パーティーが終わってもまた、素敵な日々が続くに違いない。
服を通して伝わってくるレンの暖かさを感じながら、志貴はこれからの日々を思って、もう一度笑みを浮かべた。