〜〜Zephyranthes〜〜
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 コンコン

 夢現の意識の中で、ドアがノックされる音を聞いた。
 まったく……やっと寝れそうだったって言うのに。
 どうせ、誰か分かってる。
 ここ最近毎晩毎晩まいばん……やってくるから。

「はぁ……開いてるよ。入ってきたらどうだ?」

 半ば諦めた声で、俺はドアの向こうに呼びかけた。



 月光



「あはは、起きてたんだ」

 夜中の侵入者は屈託の無い笑顔を浮かべて、そんな事を言う。
 昼間の元気な時ならともかく、夜中の眠い時間にそんな顔をされると……
 正直疲れる。

「そりゃ、な。もう1週間近くまいばんやって来られたらいい加減体も慣れるよ」

 それでも無下には扱えないな…
 そう思ったから、当たり障りの無い返事を返すと、侵入者――
 アルクェイドは、うんうんと頷いてきた。

「そっかぁ。志貴も私と遊ぶ為に起きてくれてるんだ、偉い偉い。あはは」

 なんて自分に都合の良い解釈をして下さった。
 まったく無邪気に笑う様を見て、疲れが一層濃くなった気がする。
 ノー天気と言うか、まあノー天気なのだろうが…

「馬鹿いえ。誰が好き好んでこんな夜中に……」

 起きてるもんか、と愚痴の一つでも言ってやろうとしたら。

「でも、起きてくれてるじゃない。志貴ってやっぱり優しいんだね」

 なんて言いながらまるで自分の部屋を歩くように、俺の前までやってくる。
 俺の方はベッドの上で半身を起こしているから、見上げるような感じになる。
 月明かりで薄く光って見える赤い瞳が、俺の黒い瞳を覗き込んでくる。

「……馬鹿、そんなんじゃないよ」

 なんだかそれが気恥ずかしく感じてしまい、俺は視線を逸らしていた。
 そんな俺の態度が可笑しかったのだろうか。
 アルクェイドは口元に小さく笑みを浮かべている。

「くすっ。まあまあ、そんな事よりさ、遊びにいこっ」
「なっ…! だから何度も言ってるだろ、人間は夜は寝るもんだって」

 人の気持ちを知らないアルクェイドの言い分に、思わず声が荒くなりかけた。
 毎晩まいばんこいつは何時もなんで同じ事ばっかり聞いてくるんだ?
 そう思っていたら、アルクェイドはこんな答を返してきた。

「でも私達吸血種は、夜に起きるものだもん」

 ……ごもっとも。
 確かに間違ってない。
 間違ってはないが……

「あのなぁ……俺は人間なの。お前とは違うの」
「むー、それって差別だよっ。生き物はみんな仲良くしなきゃいけないんでしょ?」

 腰に手を当てて、あのぷんぷんと言う擬音が付きそうな表情に成るアルクェイド。
 どうでも良いが、こいつは一体何処からそんな知識を身に付けてるんだ?

「いや、まあ、確かにそうだけど……でもそれとこれとは――」

 違うと断じようとする俺の腕を取って、アルクェイドは無理矢理俺を起こしに
掛ってきた。

「こ、こらおいっ、止めろって!」
「ねーねー、良いでしょ? 独りで居てもつまんないんだもん」
「だー、俺は眠いのっ、寝たいのっ! 大体、こんなに眠いのも毎晩毎晩お前が
あそぼーあそぼーって五月蝿いからだぞっ」
「でも明日はおやすみなんでしょ? だったら問題ないじゃない」
「なっ……!」

 いやまあ確かに、昨日までに比べれば明日は遅く起きても問題はない。
 秋葉に怒られるくらいで……
 だが正直もう、かなりきつい。
 毎晩の夜遊びで身体にがたが来てるのは本当だ。
 今日の昼など久しぶりに貧血で倒れそうになったし…

「だ、駄目だったら駄目っ。もう夜の街はいかないっ、今日は絶対駄目っ!」

 ちょっと強めにアルクェイドの誘いを拒否した。
 いい加減強く言っておかないといつまでもこいつに振り回される。
 そう思って少し怒った顔をアルクェイドに向けると…

「――じゃあ……街じゃなかったらいいんでしょ?」
「……へ?」

 ごく自然に、しかもごく真面目な声でアルクェイドがそんな事を言う。
 数瞬前の無邪気さが何処に行ったのか、アルクエイドは真面目に…と言うより
も、真摯に俺の瞳を覗きこんでくる。

 ……気のせいだろうか。
 アルクェイドの瞳が濡れて……涙に濡れているような気がするのは。

 その声の静かさ、物腰の静かさ……瞳に、思わず俺は惚けてしまった。

「ただの散歩……志貴の家の周りを一緒に歩くくらいならいいでしょ?」
「え……あ……いや……その……」

 急変したアルクェイドの様子に、上手く対応できず、意味の無い返事をぽつぽ
つと漏らしてしまう。
 どちらかと言うと……その、静かなアルクェイドの姿に魅了されたように…

「いい、でしょ?」
「え……あ。まぁ……散歩くらいなら……」

 静かなアルクェイドの声に、反射的にそう答えてしまった。
 すると、ぱっと花が咲いたようにアルクェイドの面に笑顔が戻った。

 ――あー。
 もしかして嵌められた?

「あはっ、やった。じゃあ早くいこっ」
「ってこ、こら、引っ張るなっ! 着替えるからちょっと待ってろっ!」

 なんだか負に落ちないが、返事はしてしまったのだから。
 そう思って俺は普段着に着替える為、アルクェイドを部屋から追い出した。






 夜の散歩もたまには悪くはない。
 自分の家とはいえ、夜の姿はまた違った趣が有るから。
 何より……
 こいつと一緒なら、それだけで楽しい。

「はぁ……良い夜だね、志貴」

 夜の空気を一杯に吸い込みながら、アルクェイドがそんな事を言う。
 前にこいつには昼の方が似合うと思ったが、夜は夜で輝いて見える。
 このあたりはやはり、種族的なものなのだろうか。

 ――いや……きっと、こいつが月の姫だからだろうな――

「もぉ、きいてるの?」
「ん…? あ……いや。そうだな」

 ボーッとしていた為に、アルクェイドへの返事を忘れていたらしい。
 それがお気に召さなかったのか、アルクェイドはちょっと眉を寄せていた。

「むー、もっと楽しまなくちゃ駄目だぞ? こんなに良い夜なんだから」
「散歩で何を楽しむって言うんだよ……ただ歩くだけだろ?」

 まあ、夜の空気を味わって、月の光を浴びるのも、それはそれで楽しいかもし
れないが…
 正直、自然だけで満足できるほどに老齢はしてない。
 赴きが有って良いと思う心と、それで満足する心とはまた別だ。

 だがアルクェイドは、本当に楽しそうに笑っている。

「そんなことないよ。夜は夜で楽しいわ。景色が全然違うし、昼には見えない月
だって見えるし…何より、生き物の声が良く聞こえるじゃない?」
「む……」

 まあ、たしかに。
 昼間の喧燥の中では自然に思いを馳せる暇も、生き物の声を感じる事も出来な
いだろうが。
 ただやっぱり、俺は昼の方が良いかなと思う。

 ――まぁ――

「はぁ……良いよ。どうせ付き合いだ。お前が楽しそうだと俺も楽しいから」
「あはは、そうなの? なんだか変なの」
「ほっとけ」

 自分の台詞がどこか気障っぽかったのと、それを笑われたのとで気恥ずかしく
なり、俺はそっぽを向いた。

「くす……怒らないでよ悪気はないんだから」
「……ふん」

 決まりが悪いせいも有り、俺は月を見上げたままにアルクェイドに背を向ける。

「…………」

 月……今気付いたけど、今日は満月なのか。
 いや……ちょっと欠けてるか?
 ほんのわずかだけ……
 でもとても強い光を放っている。
 それこそ、影が出来てしまうほどに。

 月は、満ちきって居るよりもほんの少し欠けている方が光が強いんだな…

 ……キュ

 不意に背中に感じる、温かさと柔らかさ。
 どうやらアルクェイドが抱き着いてきたようだ。

「ん……? なんだ、アルクェイド」
「…………」

 しかし、聞いてもアルクェイドは答えない。
 ただじっと……そしてそっと。
 俺の背中に身体をくっつけている。

 背中だから見えないけど……頬を摺り寄せている感じだ。
 まるで猫が親愛の情を示すかのように。

「アルクェイド?」

 呼びかける…けど、彼女は答えない。
 代わり、と言う訳ではないのだろうか…
 彼女の体が震えているのが分かった。

「震えてるの? 寒いなら部屋に…」

 そう言い掛けた時、ぎゅう…っと袖を掴まれた。
 まるで戻りたくないと言う感じで。

「……アル、クェイド?」

 再び呼びかける、でも、やはり答えない。
 ただ服の袖を握る手に、少し力が加わった感じだった。

「……ふぅ」

 真意が分からないままに、それでもあいつの自由にさせようと思った。
 何故だか分からないけど……

 アルクェイドは何かを言いたがってる、何かを聞いて欲しがってる。

 そう思ったから。




「…………」
「――――」

 月が、見ている。
 俺と、アルクェイドを。

 もう20分近くこのまんまだった。
 でも、不愉快だとは思わない。
 アルクェイドの温かさが心地よかったから。

 コイツは……本当に吸血鬼なんだろうか。
 人間と変らない肌の温かさ。
 人間と変らない……下手をしたらそれ以上に豊かな感情表現。
 とても、夜の住人だとは信じられない…

「……何も聞かないの?」

 不意に、アルクェイドがそう聞いて来た。
 何時ものような明るさはなく、いつか見た時のような強烈な意志も無い。
 その声はまるで…
 捨てられて震えている……小猫のような声。

「……あぁ。アルクェイドが話さないなら、聞かない」

 何時もの様に素っ気無い返事を返そうとするけど……上手く行かない。
 本当はなんなのかと聞きたかった。
 でも、それを聞いては……俺から聞いては駄目だ、と何故か思った。

「……そっか……」

 コツン

 と、背中に何かが触れる感触がした。
 アルクェイドの頭……だろう。
 寄せていた体を離し、アルクエイドが俺の背中に頭をつけている。

 なんだか、ひどくくすぐったい感じがする。
 そんな体勢のままに、アルクェイドがそっと囁いた。

「じゃぁ……私から言うね」

 そう言ったアルクェイドの声が、懺悔をするような気がしたのは、何故だろう。



「私ね……怖いんだ。最近」
「こわい……?」
「……うん。毎日が楽しくて…」
「楽しい事が、怖いの?」
「……うん……」

 ついと、アルクェイドの感触が背中から離れる。

「今までね、こんなに楽しい事が有るなんて、知らなかった。生きてる…それだ
けのことが楽しいって、そんなこと全然知らなかった」

 アルクェイドの方を振り返ると、彼女は手を広げて月を仰ぎ見ていた。

「くす……それを教えてくれたのは志貴だったね……」
「……ああ。お節介だったかもしれないけど……ほおって置けなかったから。こ
んな簡単な幸せを知らないお前が……」
「……うん」

 くすっと笑う気配がして、アルクェイドが手を下ろす。
 でもその顔に浮かぶ笑顔は、どこか儚い気がした。

「やっぱり……志貴って優しいね。でも……」
「……でも?」
「その、ね。楽しい事がね……怖いの」
「…………なんで?」

 楽しい事が怖いって……俺にはその意味がよくわからない。
 そういう思いが俺の顔に浮かんだのだろう。
 アルクェイドは俺の方を見ながら、儚げな笑顔をより一層強めていた。

「毎日毎日が楽しくて……志貴と一緒に遊んだり、街を歩いたり…お話したり、
こうやって散歩したり。みんなみんな、楽しいの。でも……」

 つい……ともう一度月を仰ぐ。
 その仕草が一体どんな意味を持っているのか、なんとなく分かった。

「……でも、この楽しさが無くなったら……消えてしまったらって思うと、怖い」

 あぁ……成るほど。
 そう言われると……確かに怖いかもしれない。
 夢のような生活は、でも長くは続かない。
 いつか楽しくない事も起る物だ。

「でも、それは……」

 仕方ないじゃないか……
 夢はいつか覚める物で、生れた物はいつか壊れる。
 たとえ形の無い物でも、生れた限りはやはり死と言う物を内包しているんだ。
 そういう事は何よりも、俺自身がそれを良く分かってる。

 そう言い掛けたが……
 何故か、続けられなかった。

 俺の顔を見るアルクェイドの顔が、余りにも哀しそうだったから。

「うん……分かってるよ。楽しい事ばっかりって続かないよね。いつか楽しくな
い事が……有るんだよね」
「…………」
「でも……でも、ね。分かってるけどね。怖いの……」

 キラッと、何かが輝いた。
 アルクェイドの頬から落ちた涙だ。

「楽しい事が終わる……私にとってのそれって……志貴が死んじゃう事だよね。
今、私が楽しいのは、志貴が居るからだもん……」

 ある意味、とても不吉な言葉。
 確かに、俺は死ぬ。
 いや、死なない人間なんて居ない。
 さっき思った言葉だ。
 ”生まれ”落ちて”死なない”存在なんて居ない。
 でも、どうしろというのだろうか。

「そんなといわれてもさ……まだ、先の事だろ?」

 そう、先のこと……だと思う。
 いや、思いたいのだろうか。
 世界はこんなに死に満ちているのに、自分だけは死なないと思うのは滑稽を通
り越して道化だ。
 でも、俺は死を意識して生きていたくはない。
 死が見えてしまっているからこそ、生きている時間を大事にしたいから。
 思う事だけしか出来なくても。

「…………」

 でも、俺の答にアルクェイドは押し黙ったままだ。

 ……あぁ。そうか……
 俺と……アルクェイドは…………
 生きていられる、時間が違う。

 アルクェイドは、永遠の命を持っている。
 滅びが時間で訪れない、超越者……
 アルクェイドと俺では、ずっと一緒に居られない……

「……あは。可笑しいよね。そんなの分かってる。志貴と私は違う。私は吸血鬼
で、志貴は人間なんだ。私より先に、志貴が死んじゃうって…当り前の事だよね」

 努めて明るく、やっぱり不吉な事を言うアルクェイド。
 でも、その表情は涙に濡れ……
 ”本心はもっと別に有るんだ”って、言っているようだった。

「解決方法だって……志貴を私の死徒にしちゃえば済む事なんだよね。本当は。
でも……でもね。可笑しいんだよ。私ね……そんなの、絶対したくないっておも
ってるんだ。私、吸血鬼なのに……」

 自虐的に言う台詞。
 その言葉が本当に面白い訳が無いのに、彼女は笑う。
 泣きながら、笑う。

「あはは……私おかしくなっちゃったのかな? 吸血鬼なのにね、吸血鬼、なの
に……血を吸わない吸血鬼って言うだけで、もう十分変なのにね……
 でもね、もっと変な事考えてるんだよ?」

 変な事って、なに…?
 そう、声を出して聞きたかった。
 でも、その答を、俺は分かってしまった。

 彼女が、一体何を思っているか。
 そして、その思いが、彼女を怖がらせてるんだって言う事が。

「あはは……わたし、吸血鬼なのに……志貴と一緒になりたいっておもうように
なったんだ……人間に……なりたいって」

 それは、自己を否定しかねない言葉……なのだろう。
 自分と言う種族を捨て、他の種族に成りたいと願う。
 それは、強烈な自己否定に他ならない。

「人間だったらね、きっと志貴ともっと一緒に居られるよね。もっと楽しいかも
しれないよね。何より……」

 アルクェイドの笑顔が崩れる。
 耐えていた何かが、切れてしまったかのように。

「なにより……私だけ生き残って……
 志貴だけが死んじゃうって言う事……
 無くなるよね……?」

 必死で鳴咽を殺しながら……アルクェイドはいった。

「私…………いや……私だけ生き続けるのなんて嫌。志貴と一緒に居たい。ずっ
と、ずっと一緒に居たい……でも志貴を死徒にはしたくないの。なんでかな?
そうしたら一緒に居られるのに……でも私……人間に成りたがってる。
 なれる訳無いのに。私は吸血鬼で、死ぬまで吸血鬼なのに……死ねないのに」

 月の下での、アルクェイドの告白。
 正直、衝撃が強すぎて心が追いつけなかった。
 何時も明るくてたのしげで、悩みなんて思っていたアルクェイドが、こんなに…
 泣いてしまうほどに苦しんでたなんて。

 その原因が、俺にあるだなんて。

「ねぇ……どうしたらいいかな? 私どうしたらいいかな? もうわかんない…
志貴とずっと一緒にいたい。でも志貴を私の仲間にはしたくない。でも……
私は、志貴と同じにはなれない。ねえ、どうしたら良いかな? わたし……
わ……わた……っ う……うぅっ……」

 耐え切れなくなったのか、アルクェイドが嗚咽を漏らし始めた。
 その様子は……

 道端にうち捨てられて泣いている、小猫のようだった。

「うぅっ……わかんないよぉ……私、おかしくなっちゃった……もう、ワカンナ
イの……私、自分が分からない……っ!」

 泣きじゃくるアルクェイド……
 そんな彼女を、もう俺は見てはいられなかった。

「アルクェイド……」

 そっと……でも、力強く。
 俺はアルクェイドを抱きしめた。
 強く、強く抱きしめた。

「ぅっ……志貴……志貴ぃ……」

 アルクェイドが俺の胸に顔を埋めてくる。
 その体は小さくて華奢で……人間じゃないとか、そんな事どうでも良く、
いとおしいと感じた。

 泣かなくて良いよ、安心していいよ。
 そんな言葉を掛けてあげたかった。
 でも、どれも上辺だけになってしまいそうでいえなかった。

 アルクェイドはそんな言葉を望んじゃいない。
 そう思ったから。

「……」

 だから、彼女を抱きしめた。
 強く強く……
 ずっと、抱きしめて上げた。

「……しきぃ……」

 アルクェイドが涙に濡れた顔を上げてくる。
 その不安に狩られた赤い瞳は、自分自身でも御し得ない感情に揺れている。
 そんな瞳が……とても可愛くて。
 いとおしくて。

 場違いだけど、”あぁ……女の子なんだなぁ……”という感想が浮かんだ。

 アルクェイドが俺を見てる。
 俺も、アルクェイドを見てる。
 他の人間が見たら、どう写っているだろうか。

 吸血鬼と人間に、見られるのだろうか。

 そんなと、ないと思う。
 こいつは、何処までも人間らしいじゃないか。
 吸血鬼だなんて忘れるくらいにたのしげに笑うし、今だって……
 不安に震える姿だって、人間にしか見えない。

 そもそも、そんな事……吸血鬼だとかどうとか、関係ないと思う。
 アルクエイドは、気にしているのだろうけど……
 そんな事、どうでも良いとおもう。

 俺は、こいつが好きだ。
 そこに理由なんて無い。
 だったら……好きな相手に、俺はなにができるだろう?
 こいつの不安を、どうやったら消せるだろうか……

 俺には、俺にしか出来ない事を……するだけじゃないのだろうか。


「良いよ……分かったから……」

 優しい声を掛けながら……俺はアルクェイドの背中を撫でる。
 少しでも不安が消えてくれる事を願って。

 俺は、こういった。

「アルクェイドの不安、俺が消してやる」
「え……?」
「だから、アルクェイドの不安は、俺が消してやるって言ってるんだよ」

 不意な言葉に、アルクェイドは涙眼を白黒にしている。

「アルクェイドは、人間だよ。どんな奴より人間らしいよ。俺が保証する。昼だ
って太陽の下を歩けてるだろ? 生きてる事が楽しいっておもえてるだろ? 血
を吸わない、俺を死徒にもし無いって言ってるんだろ?」
「う……うん……」
「だったら、お前は人間だよ。ちょっと変ってるだけのな」

 自分自身を騙せない嘘は、相手を不快にするだけだ。
 以前いわれたその言葉が頭に浮かぶ。
 でも、俺はこの嘘で自分を騙せてる。
 いや、嘘ですらない嘘は、もう嘘じゃない。

「……でも……私、死ねないんだよ? 寿命が無いんだよ?」

 俺の言葉に、まだ不安な顔をするアルクェイド。
 まあ、それはそうだろうな…
 俺に言われたとしても、アルクェイドが吸血鬼であると言う事実は消えないし、
彼女が不死であると言う事実も消えない。

 でも、決してそれは絶対じゃぁ、無い。
 少なくとも、後者は。

「だったらさ……俺が寿命に成ってやる」
「えっ…?」
「だから、れがアルクェイドの寿命に成ってやるっていってるんだよ」

 今から口にする言葉は、正しいのだろうか。
 それとも、間違ってるのだろうか。
 でも、俺はこいつの不安を消してやりたかった。
 だから、俺は、言った。

「いつか……俺が死ぬ時が来たら。お前も一緒に連れて行く」
「……? そ、それって…?」
「……俺の寿命が来た時、俺がお前を殺してやる」
「っ!?」

 不意な言葉にビクッとアルクェイドの体が震えた。
 まあ、それは沿うだろうが。
 自分でもとち狂った言い分だと思う。
 でも、もう俺はためらわなかった。

「アルクェイドが不死だったとしても、俺ならお前に死を与えてやれる。だから
お前が望むその時に、俺がお前を殺してやる。一緒に、死んでやる」
「……志貴……」

 戸惑った色で見詰める赤い瞳を、俺はじっと見返した。
 嘘じゃない、そう告げる為に。
 約束だ、そう伝える為に。
 俺は、アルクェイドの瞳を見詰めていた。

「……、……」

 見詰めてくるアルクェイドの唇が、何度かためらって…

「……いい、の…?」

 そして、薄く開かれる。

「志貴は……殺すの、嫌なんでしょ?」

 不安げなアルクェイドの声。
 その声は、自分の死よりも、殺す方である俺を心配していた。

「そりゃ、俺はそんなのはごめんだ。よりによってお前を殺すなんて、ほんとは
遠慮したい」
「だったら……」
「でも、俺はお前の不安を消してやりたい。お前が怖いっていうなら、その恐怖
を消してやりたい。一緒に居たいってゆうなら、ずっと一緒に居てやる。一緒に
死にたいってゆうなら……地獄の底でも、一緒に行ってやる」

 半ばやけくそな俺の意見。
 アルクェイドが自分を狂っていると言うなら、俺も狂っているのだろう。
 だからこんな事を言うのだろう。

 でも、それでも良いと思った。
 俺が、アルクェイドを愛してるって言う事実は決して消えないんだから。

「いやか? 俺に殺されるの……」

 実に馬鹿な意見。
 何処の誰が殺されるのを嫌がらない奴が居るだろうか。
 でも、俺は聞いた。
 真面目に、大真面目に。

「……ううん。いや、じゃない……」

 か細い声。
 でも、もうその声は震えて居ない。

「志貴が一緒だったら、怖くないよ」

 アルクェイドが……一度、殺してしまった相手がそういう。

「だから……ちゃんと、殺してね?」

 にっこりと笑って……

「独りで逝くなんて、許さないんだからね?」

 俺に、そう言ってきた。

「あぁ、約束だ。いつか、俺が死ぬ時……お前も一緒につれてく」
「……うん。約束だよ?」

 そう言って、そっとアルクェイドが瞳を閉じた。
 俺は、その彼女を抱きしめた……

 そして、俺達は唇をそっと重ねる。
 死が俺達を別つその時までの、誓いとして…

「……ちゃんと殺して……責任とってね?」

 優しい声とともに……
 白い吸血鬼は、死を見れる人間に、そう頼んできた。


 白くて強い月明かりの中。
 俺達は、永遠の約束を交わした…


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